小さな優しさ、大きな勇気

2022年12月27日

TSUNEI
(シンガーソングライター、個人サポーター)

 中学2年生の頃、仲のいい女の子のグループの中で、一時こんなことが流行りました。“誰か一人を仲間はずれにし、無視する“というもの。グループの中で主導権を持つリーダー的な存在の子が「○○ちゃん調子のってるから無視しよう」と言うと、グループ内での無視が始まります。
 当時の私は、どうして嫌いでもない子に、こんなことをしなければいけないのだろうと疑問に思っていましたが、「そんなことやめた方がいいよ」「私はやらないよ」などと言い出す勇気はありませんでした。それを言うことによって、今度は自分が無視をされる標的になってしまうのではないかという恐怖があったからです。
 仲間はずれにされた子は、休み時間にみんなの会話に入れません。移動教室もみんなと一緒に行けません。話しかけても目も合わせてもらえません。学校という世界で生きる日々の中で、それがどれだけ辛く苦しい時間なのか。まだいじめられる側になったことがなかった中学生の私にも容易に想像ができました。
 ある日、仲間はずれの標的にされていたAちゃんが、移動教室の時に、一人最後まで教室に残っていたことがありました。そこで、たまたま二人きりになった私は、Aちゃんに「私はAちゃんのこと嫌いじゃないよ。私は味方だよ。」と声をかけていました。
 そんなことはすっかり忘れて迎えた中学校の卒業式の日、Aちゃんが私に手紙をくれました。その手紙には、「あの時、“私は味方だよ”って言ってくれたから、辛くても学校に来られた。ありがとう。」と書いてありました。その出来事は、私にとっては覚えていないくらい些細なことでした。しかし、Aちゃんにとっては、学校に来るための大きな勇気や支えになっていたのだと知りました。
 今思えば、「仲間はずれは悪いことだ」と言って止めることもできず、陰では「味方だよ」なんて言って、「調子がいいし無責任なことをしたのかな」と思うこともあります。だけど、一つ確かなことは“些細な優しさが、誰かの勇気や支えになることがある”ということ。大雨を止ませることはできなくても、傘を差し出すことはできるということ。
 どんな小さなことでも、人のためにできることはきっとあって、さらに相手の気持ちを想像すること、ちょっと先の未来を想像すること、それができれば大雨を晴れにすることだってできる、と今は信じています。