加害を考える2つのキーワード

2019年9月6日

深めよう 絆 にいがた県民会議
座長 橋本 定男

今回は「いじめが起きる原因」というテーマで書きました。
繰り返しになりますが、いかなる事情があろうとも、いじめをしていい/されていい理由にはなりません。
「これくらいでいじめなんて言えないよね……」「周りは笑ってるし、私が気にしすぎなのかな……」「親に相談してみたけど、気にかけてもらえなかった……」などなど、少しでもしんどい思いを抱えていたら、ぜひわたしたちにお話しを聞かせてください。

いじめる側は多くの場合、加害行為を正当化します。その理由は「相手が悪いから」や「遊びだから」などです。問題は、それがいじめを追及されたときの言い逃れではあるけれど、自身の加害行為をある程度本気にそのように認識している点です。いじめが悪いと知っていながら自身の行為をいじめだと認識しない、いじめ加害の注目したい現実です。気付かないうちに加害者になりうる、すなわち『誰でも加害者になりうる』が成立する理由だと思います。

このような加害の側面について子どもと共に考えていくために、和久田学(※)は子どもにも伝えたい“いじめ加害を考えるキーワード”として「シンキング・エラー」と「アンバランス・パワー」を提唱しています。シンキング・エラーは、いじめをしていてもいじめと気付けない、「あれは遊びだった」「これは注意、これくらいしないと」などと認識する、間違った考えのこと。アンバランス・パワーは「力の不均衡」。被害者からみれば相手の力は強く、やり返すことも、嫌だということもできないというアンバランスのこと。

加害者たちは、「相手が悪いのだから当然」などとシンキング・エラーで正当化し、傷付くことを安易にエスカレートさせます。そこに相手の気持ちを考え共感する余地がありません。和久田は断言します。「いじめ加害者の最も顕著な特徴は、『共感のなさに基づくシンキング・エラー』なのである。」納得です。重要なキーワードだと思います。

アンバランス・パワーの話を聞いた高校生が『いじり』についての議論で「相手に言い返せるうちは『いじり』でとおるが、アンバランス・パワーが生じて言い返せなくなれば『深刻ないじめ』に変わる」という意見が生まれた例があるそうです。また、ある中学校で教室の横に2つのキーワードを掲示したところ、しばらくして生徒たちがそれを指さしながら、「さっきのこと、傷付けたかな?僕は冗談のつもりだけど、“シンキング・エラー”を起こしていないかな」などと話していたという例があるそうです。これは使える!

そこで提案。教室で、発達段階や生活現状を踏まえ、『誰でも加害者になりうる』をテーマに、シンキング・エラーとアンバランス・パワーを使ったディスカッション、授業をやってみるというのはどうでしょうか。また家庭においても、わが子を「気付かないうちに加害者」にしないという意識をもって、機会があったら話題に2つのキーワードを取り上げてみてはどうでしょうか。

※ 和久田学「学校を変える いじめの科学」日本評論社(2019)